サンライズ

おばあちゃんのお見舞いに行った

病室は蒸し暑く

急にどうしようもない眠気に襲われ

少しだけ目を瞑った

その一瞬

今は雑草が生い茂り

廃墟と化している

おばあちゃんの家に光景はフラッシュバックした。

夏のある1日

映画みたいに蝉が鳴いていて

縁側にちりんと響く風鈴の音

飼っている烏骨鶏の餌に混ぜるために

おじいちゃんが砕いた貝殻が庭に散らばっている

なんとなく、ふと立ち寄る

おばあちゃん家の日常の光景

縁側から家をのぞき込むと

こちらに気がついて嬉しそうな表情

かずさ

ご飯食べたのか？

うどんでも茹でようか？

いらない。大丈夫。

いつも決まってこの会話。

そんな

日々たちは

こびり付くような現実として

確かにそこに在った。

目を瞑った10秒間

目を開けるとそこには

蒸し暑い病室の光景が又広がる。

それはなんの違和感もない現実なのだけど

じぶんも気付かぬ間に

日常は蝕まれ

こんなにも非現実な光景を

当たり前のように受け入れていることに

ふと嫌気がさした。

いつから本当に大切なことを

話さなくなってしまったのだろう

愛が大事なんて

どの口が言っているのだろう。

本当は枯れて枯れて

乾き切っていたんだろう

そんなじぶんに

嫌気がさしていたのだろう

おばあちゃんの

茹でたうどんが食べたいなって

なんで言わなかったんだろう

そうか。

僕はとても長い間

何も話していないんだな

自分の意思で動いている様で

何かに与え続けられる現実を

ただ眺めているだけ。

悲しいも嬉しいも 

全部眺めているだけ。

本当に欲しいものなんて

既に全部持っていたものばかり

風の音で気づかなかったけれど

もう言葉は風に飲まれて消えていた

だから傍らに悲しみを

僕と大切な話をしよう

かずさ